AlphaJax

「思いを込めた一言文通」



 『AlphaJax』は、スクリーンタッチ式のプレイに良く合った、英語の単語パズルゲームです。
 プレイヤーの前にまず提示されるのは、マス目で区切られた四角い大盤と、ランダムに配られる7枚の文字カード。手持ちの7文字を使って単語を作り、盤の中央から埋めていきます。
 一つ単語を作ると交代し、相手の番になります。
 「最初の一語以降は、置かれた文字を単語の一部に組み込まなければならない」「複数枚並べるときは一方向に限定される」「並べたとき、どの行列の2文字以上の並びにも単語としての意味が見いだせなければならない」というルールでゲームは進みます。
 文字カードは使うたびに7枚まで補充されますが、交互に単語を作っていくと、文字カードのストックはそのうちなくなります。文字を使い切った段階でスコアが高い方が勝ちです。

 スコアは、単語を作るのが難しそうな文字には高得点、母音など汎用性の高い文字には1点などと、一文字ごとに割り当てられています。
 また、盤上にもスコアの種が仕込んであります。特定のマス目に置くことで、その文字や、ときには作った単語全体のスコアに倍率がかかります。使った文字のスコアが高ければ、一気に点を稼ぐチャンスです。
 さらに、一度に複数の単語を作ることができれば、その分のスコアがまとめて入ります。縦に並べつつ、隣り合う横同士でも単語になっている、そんな置き方が見つかれば大チャンス。安い手駒でも大きなリターンが望めます。

 手番が回ってくると、まず盤面の全体を見回し、手持ちの文字とにらめっこもしながら、活用できそうな場所を探します。そしてカードを置くときには、指でタップすれば、置きたい場所が拡大されて操作しやすくなる仕組み。広がった分、盤の全体は見えませんが、盤をドラッグすれば表示範囲を移動できます。
 筐体を振ってみると、手持ちのカードの並びが変わります。変わり方はバラバラですが、その分だけ盲点を突いてくれることがあり、単語がぱっと思いつかないときに試してみてもいいかもしれません。

 ゲームの基本的なルールは、実のところ、昔からあるボードゲーム「スクラブル」とほぼ共通です。
 そんな古来の有名作を新たに取り扱うにあたって、本作ではネットワーク対戦をサポートしています。というより、ゲームのメニューを開いてまず出てくるのがオン対戦であり、こちらが本命と思われます。
 オン対戦では、単語のやりとりを見知らぬ誰かと行います。ゲームがでたらめにあるいは近いスキルから対戦相手を選んできて、1対1の対戦をセッティングしてくれます。
 こちらから立ち上げたゲームなら、最初の単語を置けて、一手のスコア分だけ有利に。そういうシステムなので、積極的にゲームを立ち上げたくなり、場が廃れにくくなる工夫です。
 そして、この対戦スタイルはまことに悠長なもので、一手にかけていい時間は最大1週間という特徴があります。リアルタイムで急かされるものではなく、ずっと接続しっぱなしの必要もない。自分の手番を終えたら、次の反応はすぐに来るものではない。気が向いたとき・時間ができたときに手を返せばいいのです。
 決着がつくまで1ヶ月かかるのも珍しくありません。少しの時間の隙間に気長なプレイ期間を掛けたら、総プレイ時間はなかなかのもの。

 相手がアクションしたとき、ネットにつながっていれば、音と振動でお知らせが来ます。時間があればその場で立ち上げるし、忙しかったり気づかなかったりすれば、後でホーム画面を見れば通知に残されている。連絡に促されてゲームを立ち上げ、そこで相手方の一手を目にするまでの一連の流れは、携帯端末に着信を受けるような連想のとおり、メールの交換に近いと思いました。
 いや、正確にはもう少し近いやりとりの形式がありました。それは文通です。
 相手が渾身の工夫を込めて、ただ一つの単語を送ってくる(場合によっては複数の意味も掛けて)。こちらも負けじと考えて、これぞと思う一語を送り出す。そんな密度の濃い、そのくせスパンの長いやりとりは、各単語にまったくつながりがなかったとしても、即応が求められる日々の通信から離れて、書き付けるような感触の重さを単語に与えてくれているように感じられます。
 手番を決定するボタンを押すまでに、もっといい単語の選び方は本当にないのかとの逡巡も入るなど、書を封じる前、あるいは投函前に内容を顧みてちょっと思い悩む、手紙由来のあのためらいに似ているのではないでしょうか。
 一手にかかる時間が長いことが、重み付けにより強く作用しているのだと思います。

 システムだけでなく、ゲームの細かな工夫も、文字に愛着を抱かせるよう手伝っています。
 文字を盤に運んで置いたときのパシッと心地よい効果音は、まるで言葉を刻みつけているかのようです(もちろん、単語決定前なら自由に置き直せますが)。
 点数を競っているのは確かだけれど、それとともに単語の構成の美しさや意外性なども大事にしたい。その一方で、新たに単語を作れなければ、盤上に既存の単語に、接頭語や接尾語で寄生してやり過ごす思慮も抜かりない。
 単語パズルゲームでは、単語の定義が明らかにされず、各プレイヤーが己の語彙内で言葉を吟味するのが面白いところですが、ままならぬ生身の相手がいて、手持ちのやりくりをおろそかにしたがらないことで、その魅力を十全に味わうことができます。それでいて、リアルタイムの反応までは求められない本作のルールなら、時間を気にせずじっくり考えられるのが嬉しい。その点でまさしく、オン対戦は本作のメインモードと言えるでしょう。
 昔からあるゲームを携帯化させ、やっているのは比類なく軽い電子の往復なのに、かえって文通のようなアナログを感じられる。そういうひねりが興味深く感じられます。

 本作が動かせる本体を持っていれば無料で入手・プレイ可能なこのゲームですが、入手から対戦まで、ネットワークを介して遊ぶ穏やかな楽しさの布教という点では宣伝効果抜群、これぞ先行投資の典型ではないかと思えます。
 願わくば日本語にも、こういう格調高いことばのパズルが、もっと現れてくれますように。

('13/12/28)

AlphaJax

発売元:Microsoft Studios
機種:Windows Phone7.5, 8
発売日:'12年12月4日
プレイ時期:'13年11月〜12月
購入価格:無料
skill matchで数ゲーム、決着がつくまで対戦



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