フェイスブレイカー

「白熱のカウンター合戦」



 ボクシングにグローブが必要なのは、殴る拳を保護するためだと聞きます。喧嘩でなくスポーツなら、長いこと続けるためにも、下準備は必要不可欠。身を守る装備なしでリングに上がって怪我をしたとして、それをボクシングのせいにできるでしょうか。
 コミカルな見た目のボクシングゲーム『フェイスブレイカー』におけるグローブ代わりの下準備は、カウンターの習得です。

 上下2方向のジャブと強打、そして相手と距離を取るスロー(投げ)。本作ではこの4動作に、親指で押す4つのボタンがそれぞれ割り振られていて、攻防をこの4ボタン1回押しの組み合わせで賄えます。
 押すたびに一回攻撃、実に分かりやすいシステム。しかし、分かりやすさを攻撃の当てやすさと捉えて安易に殴りかかると、コンピュータが受け持つ対戦相手に、あっという間にのされます。恐らくは、難易度を最も易しい側に下げたとしても。
 先の操作説明では、攻撃にしか触れませんでした。ジャブの2ボタンは、押してすぐ離すことによって出るもので、押しっぱなしにすることで、その方向のパンチをかわせます。これが、ボタン1つで操作できる防御の側面です。そして、かわした瞬間にボタンを離すことで、逆襲のカウンターパンチを当てることができます。
 CPUの難易度・強弱は、このカウンターの習熟度で現れてくるものなのです。単調なパンチ攻勢では勝ちの望みにくいこの思い切った調整は、プレイヤー側に簡単にできる攻撃は、CPUも簡単にできる、という想定の上になされているのだと思います。

 カウンターが圧倒的に有利なこのシステムは、先手必勝への対策であると言えます。勝負を公平にしようとするなら、手を出したもの勝ちではまずい。
 かといって、後手が完全に有利なら、どちらも攻撃せずに相手の行動待ちに入ってしまい、試合が成立しません。そこで、「カウンターが入る状況に立ったら先手と後手が入れ替わる」という追加ルールが生きてきます。
 カウンターはカウンターでかわせます。その用意のために、攻撃する側は、ボタンを離したと同時にカウンターの準備のためにボタンを入力しておけばいいのです。それがあるから、試合が動くきっかけ程度の気軽さで攻撃できるのです。展開が動くよう促しながら、公平さにも真摯な、良いルール設定だと思います。
 ここで生じるリスクは、双方とも上手にプレイすると、どちらの攻撃もいつまで経っても当たらない、ということですが、攻撃を避けられる判定・カウンターが決まる判定のどちらも有効時間が短め。目まぐるしく攻守が入れ替わる対戦では、完全なタイミングでの入力などできず、いずれどちらかがミスをします。試合が膠着状態に陥らない調整も、きちんとなされているのです。

 ここまでルールへの理解が及べば、タイミングと読みのせめぎ合うリングに立つ下準備は万端です。
 敵は上下どちらに攻撃してくるか、また同じ方向に連続して攻めてくるか・上下を変えてくるか。たとえ一発二発もらっても、その後の攻撃の方向が読めれば、すぐに拾ってカウンターにつなげられます。
 変化をつけるのは重要ですが、変化をつけられるという想定があれば、そのように読んで逆方向に備えればいい。ここはそういうルールが支配する場所なのです。
 このルールさえ身につければ、CPU戦を勝ち抜くこともできるでしょう。

 カウンターを軸にした戦いを前提にしているとおぼしきCPU戦も、相手の特性を読み切ってパターンに陥れる過程がそれはそれで楽しいものですが、上記ルールに則った、対人戦における本作の攻撃の読み合いは非常に熱いもので、プレイヤーの性格推測にまで発展する面白さを持っています。
 首尾よく攻撃の読みが決まり、相手の予想を裏切り続けられれば、ジャブを次々つないで強打で締めることで特殊技へと発展。10回コンボまでつながれば、究極の「フェイスブレイカー」が発動します。
 これは当てた瞬間に、体力ゲージ・それまでのノックダウン本数とも関係なく勝利が決まり、なおかつ相手の顔をぼこぼこに腫らす、というショータイムで、倒された相手のつぶれ顔が勝者のメモリー内にコレクションされるという悪趣味のおまけつき。
 単純に上下2パターンから選ぶという視点では、10回読みを外し続ける確率は1/1024であり、フェイスブレイカーの達成がどれだけの珍しさか、逆にはまったらどれだけ悔しいかが想像されるでしょう。

 こんなに楽しい対戦モードを抱えているものの、現世代随一のネットワーク対戦環境を誇るXbox360でのリリースであっても、本作のサーバーは発売元のEA由来品を採用。
 つながりにくい上にサポート期間が短いことで悪名高いEAサーバーですが、本作のルールが伝わらない難しさがプレイヤーの不評と減少へとつながり、使用率の低さを理由に、発売から僅か1年半であえなくサーバー停止、オンラインサービス終了と相成りました。
 もう、あの白熱した試合をネット越しに行うことはできません。
 それはまた、パッケージ記載の「対戦相手は無限大」との謳い文句を発売元自らほとんど反故にしたことも意味しています。メーカーの評判を落とす一端を担い続けるのは、不人気タイトルだからという以上の罰が課されているようで気の毒です。
 せめてローカル環境ででも、システムを分かり合った気の合う仲間どうしで、Wii版のサブタイトルばりに「K.O.パーティー」が繰り広がればいいのにと願ってやみません。

 正直なところ、顔の変形についての研究を商品の形にする際にボクシングを題材に取った、というふうに見えなくもない一本ではあります。
 ただ、タイトルにまで持ってくるだけのことはあり、腫れ顔のひどさは一見の価値はあります。また、歪んだ顔を違和感なく動かそうとの努力の成果が「猿のキャラクターに人語、それも卑語を、唇の動きだけで読み取れるようにしゃべらせる」(卑語なので音声は出ません)などという明後日の方向に出ている点も、見所のような気がします。
 ボクサーの外見を自作することができ、特に顔は実写取り込みも、そこからいろいろ調整することもできて、このあたりが、先に触れた「対戦相手は無限大」が意図していたところです。ということは一番の売りはやっぱりグラフィックだったのかと改めて残念に思えてきますが、そこに頼り切りにならず、内容が面白かったのは作り手の意地でしょう。
 日本人っぽいキャラクターに日本語のテーマ曲も入って、極東の顧客への配慮もほの見える本作、ぜひ説明書の最後のページまで読んで、そこに記載されているカウンター合戦を身につけ、その醍醐味を味わってほしいと思います。
 こういう重要なことは、せっかくならもっと前のページに見つけやすく書いておいてほしいとは切に思いますが。

('11/12/27)

フェイスブレイカー

発売元:エレクトロニック・アーツ
機種:Xbox360
発売日:'08年10月16日
プレイ時期:'09年4月、'11年8月
購入価格:3,156円
難易度プロで"BRAWL FOR IT ALL"モードをクリア



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