アイドルマスター

「歌と踊りの果てなき宴」



 歌って踊れるかわいいアイドルが世間にどれほどいるのか分からないほどそちらの事情に疎くても、この『アイドルマスター』では心ゆくまで面白く遊ぶことができました。
 歌一本で生活の糧を得る専門家と違って、歌そのものだけでなく歌っている様子が丸ごと愛されるのがアイドルの本質なのかも知れないと、ときには転んだりもする晴れ舞台での演技を見るたびに思わされます。

 『アイドルマスター』は、ミニゲーム、リズムアクション、およびギャルゲー的選択肢つき読み物の結果を一定期間積み重ねるゲームです。
 プレイヤーはプロデューサーの役割を担って、勤める事務所に所属する10名のアイドルの卵の誰かと、ゲーム内時間で1年間、活動を共にします。ミニゲーム形式のレッスンで実力を付け、ファン獲得のチャンスとなるオーディションに臨みます。また、指導者やマネージャーとしてアイドルから信頼を得るための「営業活動」と呼ばれるイベントは読み物の形で進行し、オーディションの戦いやすさに影響します。
 レッスン・オーディション・営業の3種は自由に選ぶことができ、その結果次第で、1年の間に担当アイドルにつくファンの数が変わります。そして、結果がどうあれ活動期限切れによるプロデュース終了という形でゲームは一段落し、望むなら別の、あるいは同じキャラで1年間の新たなプロデュースに取りかかります。

 女の子の近くにいられる大義名分は、いつだってギャルゲーに重要なテーマです。
 実際の芸能活動はいざ知らず、本作の、常に目的を同じくする同志として厳しい競争を勝ち抜こうという意識は、相手との距離感を適度に保つ上で大変に好ましい設定です。
 ゲーム終了時点でその関係に変化が訪れているかも知れませんが、プロデューサーという役割を勤め上げた上での変化であれば納得できます。お互いは、12ヶ月の活動期間中に多くの思い出を抱えていくのですから。

 ファンを増やし有名になるための手段であるオーディションは、本作のゲーム的側面でのキモでもあり、6プレイヤーが(電子的に)一堂に会して行われるリズムアクションゲームとなっています。
 そのときの持ち歌を歌っている2分間で、ボーカル・ダンス・ビジュアルと3種にカテゴライズされた分野に、アイドルの力量を表す点数を配っていきます。「審査されている間を通してメンバー中の平均以上の点を取っていられたら合格」というのがルールの大ざっぱな説明です。
 レッスンで鍛えた自力やこれまでの戦績による名声、プロデューサーが指示を出すという設定でプレイヤーがボタンを押すタイミングと判断、そしてオーディションの場の雰囲気を読む力がないまぜになって、現場は情報が嵐のように飛び交います。
 ここへ、「合格への配点は今日はボーカルを重視」といったそのときどきの流行が絡まった戦いの場は、リスクとリターンの釣り合いが取れた、全員が後出し可能なジャンケンの趣。
 ネットワークを介しての対人プレイに対応しており、多人数の対人対戦ではコンピュータ戦にはない戦略性や読みの魅力が味わえます。明らかな勝ちパターンは原理的に存在しないため、緊張感ある面白いプレイが楽しめ、相手のいる限り延々と遊び続けることができます。

 みごとオーディションを勝ち抜くと、「テレビ出演」ということで、担当キャラがステージに立ちます。
 テレビ番組の歌のコーナーの趣向で、歌いながらその歌専用の振り付けを、あらかじめ指定しておいた服装やアクセサリーを身につけた姿で踊る様子が映し出されます。
 この場面はただただ驚き感心するばかりの滑らかさです。装備品のほかに、カメラの角度やズームがその都度勝手に変わりながら組み合わされることもあって、たとえ同じ曲・同じメンバーであっても、何度繰り返し見ても飽きません。
 全ての歌がオーディションの制約から2分間できちんと終わる点も含め、このステージのまとまり・出来映えは素晴らしいの一言です。

 本作の膨大な情報量は対戦や動画には留まりません。
 歌は各メンバーが全16曲をそれぞれ歌う(数え方によっては16曲×10名で計160曲が使われていると言える)のに対して年間通して持ち歌にできるのは最大5曲だし、1プレイで見られるイベントの数はほんの僅かです。
 これにグッド・バッドとも複数あるエンディングがあることも考えると、全制覇には気の遠くなる試行回数が求められます。あまり神経質にならず、つまみ食いで遊んでいくと気分が楽です。
 山ほどあるイベントも、話の本筋に絡むものは少ないため、ランダムに出てきたものを適当に選んで楽しむスタイルになっていきます。ただし、気を緩めていると「白昼の公園で教え子の中学生にいたずら」などという、CEROの審査通過を疑う仰天シーンに出くわしたりするので、展開の不意打ちには常に注意しておきたいところです。

 『アイドルマスター』は、ゲーム本編と言えるオーディションでも、その結果を眺めることでも、それぞれの方面で抜群の楽しさを提供してくれる、希有なソフトです。
 ブームの面でも技術的にも他のゲーム以上に楽しむための旬があるだろう本作に、盛り上がりが冷めないうちに触れることができて、本当に幸せだったと思います。

('07/12/29)

アイドルマスター

発売元:バンダイナムコゲームス
機種:Xbox360
発売日:'07年1月25日
プレイ時期:'07年7〜12月(記事作成時点で継続プレイ中)
購入価格:5,580円(新品)
全キャラでランクAグッドエンディングクリア



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