伝説のスタフィー

「アクションの義務教育」



 『伝説のスタフィー』は、横視点、縦横スクロールの2Dアクションゲームです。
 主人公のスタフィーはヒトデをかたどったと思われるかわいらしい星形のキャラクターで、冒険の舞台が海ということで他のキャラクターにも海産物が多く登場するのが特徴です。
 フィールドは海中を主体としながらも時には陸に上がり、最終的には天界にまで至ります。フィールドが複数あるので、それに対応してスタフィーが移動する際の慣性や、攻撃するときのモーションが変わります。他にも海から上がる際の特殊操作、乗り物を操る強制スクロール面、ブロック崩し的なミニゲームなど、多彩な操作系をとっかえひっかえしながらゲームを進めていくことになります。

 スタフィーが取れる動作には通常の移動のほかにダッシュ、スピンアタック、ジャンプなどがあります。このうちスピンアタックは敵に攻撃する手段であると同時に高速な移動手段でもあり、またやみくもに連発しているとスタフィー君は目を回して動けなくなります(体全体を使って回転しているから)ので、スピンアタックを自在に操ることが、ゲームの上達につながります。
 といったようなコツをつかめないうちは操作に戸惑うことも多く、なかなかスムーズにゲームを進められません。しかしこのゲームはその点を考慮して、丁寧なチュートリアルを用意しています。
 それぞれのアクションに慣れるため、シビアではないもののそれを使ってクリアするようにマップが組まれていますし、ライフ制なので一度や二度のミスなら大丈夫。回復アイテムもそこら中にあります。
 こんな調子で、全ての操作をマスターするころ、エンディングを迎えます。
 そうです。『伝説のスタフィー』では、ゲーム全体がチュートリアルモードだったのです。いや、そうとしか思えません。

 マップ上には目的地のほかにいくつもの扉が見えますが、そこには決まって障害物があり、脇道にそれることは許されません。ステージ間にはお使いを指示するデモが入り、「迷子のスタフィーがもとの住みかに帰る」というただこれだけのストーリーが、多数の分かれ道を横目に長々と引っ張られます。
 アクションに熟達するスピードが速ければ速いほど、ゲーム展開を冗長だと感じることでしょう。
 ストーリーを見せるためにしてはこれは長すぎるし、どうしても見ておかなければならない話でもありません。そういった狙いではなく、アクションに不慣れなプレイヤーにも十分な練習の機会を与えるための構成であると考えれば、このあまりの一本道ぶりも納得できるのです。

 エンディングを見終えて再度ゲームをスタートさせると、ストーリーに新たな、そして最後の展開があります。これまで通過したフィールド全般に、くまなくアイテムが配置されます。そして、スタフィーには、これらを集めるという新たな目的が与えられます。
 各ステージに舞い戻ってみれば、かつて行く手を阻んだ障害物はその役割を終え、マップの隅から隅まで探索できるようになっています。実に、ここからがこのゲームの本番、『伝説のスタフィー』二周目・宝探し編の始まりです。
 慣れ親しんだアクションを駆使しての冒険が始まります。一本道シナリオから解放された今や水を得た魚ならぬヒトデ、どこから攻略しても自由。宝探しに順番はありません。隠されたステージはいずれも難易度アップ、一度倒したボスキャラたちも、よりひねりを加えた攻撃とごほうびの宝物を携えて、プレイヤーの再挑戦を待っています。
 マップの、敵の攻撃の、あるいは強制スクロールの企みに屈しながらも、技量を手にしたプレイヤーは工夫を凝らし、クリアへ向けてひた走ります。場所場所に応じた手段を考え、それを実行に移すその連続が楽しく、アイテムの累積が達成感を盛り立て、遊んでいてつい時を忘れます。
 アクションゲームの楽しさが、この二周目には詰まっているのです。

 さて、本作の一周目ほどに徹底してアクションの基本を叩き込まれた効果は、本作を遊びやめたら消えてしまうのでしょうか。私はそうは思いません。
 二周目のような楽しさを味わうためには、アクションをマスターするための練習が欠かせません。クリアのための手だてを思いついたとして、それを実現できないのでは意味がありません。逆に、この楽しさが待つことを知っているなら、プレイヤーがそのための練習を厭うことはないでしょう。
 そして、その事情は本作だけではなく、アクションゲームに代表される、テクニカルな操作を要求されるゲーム全般に当てはまることです。
 一周目の長いチュートリアルは、すでにアクションゲームの楽しさを心得ているプレイヤーにではなく、アクションゲームに初めて取り組むプレイヤーに対して、言うなればアクションの義務教育、あるいは教養課程のように働くのではないかと思うのです。

 この洗礼の後であれば、アクションゲームを楽しめるようになることでしょう。たとえ別のゲームの独特な操作系に悩まされても、それをマスターした先に楽しみがあり、それを得るためには技術を磨けばいいという意識の土台が培われているからです。
 アクションの(もっと言えばゲームの)初心者にそのことを身に付けさせるために、二周目だけで十分に面白いにもかかわらず、剰余と感じられるほど丁寧な一周目が本作に付け足されているのではないでしょうか。
 妄想をさらに広げるなら、本作には、単体での良作としての名声を犠牲にする覚悟で、このジャンルを好む同志を育み、将来のユーザー層を広げるための布石となるべく、縁の下の力持ちに似た役割が担わされているように思えます。このソフトの発売元が、低年齢層をメインターゲットとしていて、キャラクターものにも強い任天堂であるのは、そんな妄想にはハマリ役です。

 かわいい見た目に惹かれて本作に触れた、多くは子供であろうプレイヤーが、その後もアクションゲームというジャンルに親しむようになっていったなら、それはゲームにとってちょっと明るい未来なのではないかと思います。

('03/1/14)

伝説のスタフィー

発売元:任天堂(開発元:トーセ)
機種:ゲームボーイアドバンス
発売日:'02年9月6日
プレイ時期:'02年12月〜'03年1月
購入価格:4,480円(新品)
二周目「たからもの」コンプリート



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