スタントマン★イグニッション

「映画の威を借るゲーム」



 レースゲームがいかに速くゴールまでたどり着けるかを競うものであるのに対して、いかに決められたルールに沿って走り続けられるかを競うことから、この『スタントマン★イグニッション』は、運転ゲームでありながらレースとは異なります。

 本作におけるルールとは、「スタント」と認定される走りを見せること。
 障害物を見かけるや近くに寄ってなるべくぎりぎりを走り抜け、坂と見れば頂点から勢いよくジャンプ、小さな段差があれば片側のタイヤを乗せ、車体を傾けて二輪走行。
 カーブは必ずドリフトで曲がり、大型トラックが通ればその下をくぐり、許される場面では建物の壁や柱をぶち抜く覚悟も必要です。運転と言うよりはアクションゲームの趣が強く出ています。
 これらのスタントを息もつかせず連続でつなげることで、スコアが連鎖的に上昇します。所定の走りを終えたときのスコアが高ければ、優秀なスタント演技として多くの☆が進呈されます。最大5つ星を目指してがんばりましょう。

 ルールだけを見れば、本作はときに息詰まるほどの精度とそこに至るまでの繰り返しを求められるストイックな覚えゲーです。
 コース上をスタント目的で走っているのはプレイヤー一人だけ。主役であるとともに、常に孤独な自分との戦いが繰り広げられます。
 つながりそうもないスタントをどうつなげるか考えるパズル的な面もありますが、それ以上に、解法が分かってからの実践に労力を払うゲームです。
 それだけに、すべてを予定通りにこなしてスタントを仕上げたときの達成感は格別です。

 ただ、『スタントマン★イグニッション』は、単なるコンボ追求ゲームには留まっていません。高い操作技術を求められる重苦しさを吹き払うように、本作の設定には底抜けの楽しさが詰まっています。
 各ステージは、映画のワンシーンという形で与えられます。溶岩地帯からの脱出がテーマのパニック映画、砂漠が舞台のマッチョな戦争もの、はたまたバイクを乗りこなしての変身ヒーローものまで、ジャンルはさまざま。
 映画のセットということで盛りだくさんに用意された場面の中を、監督の要求に応じて、ときにはそれ以上のパフォーマンスで、「スタント」し続けるのです。

 ここでは失敗が笑いに包まれています。道を踏み外して溶岩に呑み込まれても、たまに乗るバイクでどう見ても致命的な激突をしでかしても、強靱なスタントマンたるプレイヤーは即やり直し可能。
 間違って通行人を轢いてしまっても、監督が言うように「みんなロボット」であればお咎めなし。どんどん失敗して、コースを覚え、次に生かしましょう。
 首尾良くシーンを通してスタントを決め続ければ、普段厳しい監督からも思わずお褒めの言葉が口をついて出ます。もちろん及第点程度でもアメリカンジョークのノリは忘れず、映画ごとに異なる各監督の癖も含めて、いろんな台詞を聞きたくなります。それらの会話が全て日本語に吹き替えられているのも高いポイントです。

 一本の映画に必要なシーンを、一流でも三流でもひとまず撮り終えられれば、お待ちかねの予告編が登場します。
 今回のシーンも取り込んだ、架空の映画の名場面集が放送され、「近日公開!」で締められる流れに、このゲームの立ち位置の見事さがくっきりと現れています。
 映画のような視聴主体のゲームではなく、実在の映画と同一素材を使ったゲームでもない。映画目線からは安い使い回しに見えかねなくても、全てはゲームのためのものであって、映画はその存在感を利用されているだけなのが、実にしたたかで痛快です。
 ある映画などは、このゲームの前作で同様に登場した映画の続編という設定であり、架空を重ねた深みまで感じます。

 そして、ただ味付けが面白いのみならず、この「撮影」という設定によって、タイムが不要なことで一旦断ち切られた運転の目的が、個々に立て直され統一されているのです。
 レースゲームは速さの追求が全てであり、その名分の下にコース取りや加速減速のタイミングなどあらゆる要素がまとめられます。しかし、ゴールを急がなくていいのなら、どう寄り道してどのように走っても構わないはず。それではゲームが発散しかねません。
 そこで、「カメラから外れないように」大幅なコースアウトが禁じられ、「シーンの尺に収まるように」目標タイムが設定され、ときには「つかず離れずの演出のために」追い抜いてはいけない(!)ライバルカーが出現したりするのです。
 その範囲内でスタントを選ぶ自由が与えられ、コースを考えることでようやくゲームに一本の道が引かれる様子を見ると、本作がルールを構成するうまさもさりながら、それを透かして、一般的なレースゲームがとてもシンプルに成り立っていることにも改めて感心させられます。

 撮影に入る前の説明では、巨大な一枚の画像に必要事項を描き(書き)込んでおき、部分的に拡大しながらその一枚で全てを解説するという割り切った端折り方も見られ、先の映画の設定も合わせて、力を抜いた技のかかり方がスマートです。
 映画でキャリアを積んでいけば、やがてCM出演の声もかかり、汚れた車を走りながら洗ったり、配達車を運転したりなどの楽しい特殊ミッションが待っています。
 シチュエーションがまるで異なっているため、走るコースが本編と共通であることも気になりません。

 オンライン対戦モードもありますが、他車に後ろからぶつけて良いという追加ルールは、華麗に危険走行を演じるスタントの魅力を損ねている感があります。
 ここは、一人プレイ用にこれでもかと用意された派手な映画的演出を存分に楽しみ、さらにそのルールを気に入った際には、冒頭で言及したような本来のじっとり地味感覚を、スタート・ゴールの定位置さえ取り払われたフィールド内で、決まったセットを組み立てて課題を解決する「コンストラクトモード」で味わうのが良いと思います。
 それが終わる頃には、このゲームが映画を題材にしてくれて良かったと、その華の存在に心から感謝できるでしょう。

 幾度もの再チャレンジを厭わない精神があれば、硬軟両方面に渡るサービスを心ゆくまで楽しめる。
 『スタントマン★イグニッション』は、ドライブ風味全開のパッケージと内容がやや異なるだけに取っつきは悪いものの、遊び込むだけの魅力を備えた良いゲームです。

('09/7/25)

スタントマン★イグニッション

発売元:THQジャパン
機種:Xbox360
発売日:'07年12月13日
プレイ時期:'08年7月
購入価格:3,990円
映画・CM・コンストラクトチャレンジ全ステージで5つ星獲得



目次に戻る
inserted by FC2 system